消防

救急車をタクシー代わりに使うとどうなる?元消防士が語る悲劇

あにたろ

※施設名等は仮名です。


救急車の不適切利用が招く問題

①「救急出場指令です。現場は鈴木病院。ベッドが満床のため、80歳男性を木村病院に搬送してほしいとのこと。主訴なし。」

②「救急出場指令です。現場は老人ホームコスモス。90歳女性のSPO2が低下したため、吉田病院に搬送してほしいとのこと。」

③「救急出場指令です。現場は加茂地区の三浦さん宅。30代男性が飼い犬に手を噛まれ、出血があるとのこと。」

これらは、実際に自分が対応した救急事案です。明らかに軽傷なものもあれば、現場に行かないと判断に迷うものもあります。

現在、救急要請の約半数が入院を要さない「軽傷」での出動 です。

厚生労働省の統計によると、全国の救急出動件数は年間700万件以上にも及びます。しかし、その約50%が軽傷や不要不急の出動であり、本来の救急対応が遅れる要因となっています。

先ほど挙げた事案もすべて軽傷で、民間救急車や施設の車、家族の車で対応可能なものでした。

特に③の飼い犬に噛まれた事案では、実際に現場で確認すると、数mm皮が捲れただけ。病院の先生には、

「こんなことで救急車を呼ぶな」

と怒られていました。

まぁ、とはいえ、その病院も①のような転院搬送をしているのですが……と、心の中でツッコミました。

どちらにせよ、自分はこれらを 「不適切利用」 だと考えています。


アフロ田中@のりつけ雅春

救急車の不適切利用が生む弊害

救急車の不適切利用によって生じる問題は、小さなものから深刻なものまでさまざまです。

  • 隊員の負担が増加し、事故を起こすリスクが高まる
  • 本当に救急車が必要な人に対応できなくなる

自分が一番懸念しているのは、 「本当に必要な人に救急車が行けなくなること」 です。

実際に、自分が対応した中で最も胸糞悪かった事案を紹介します。


救急車をタクシー代わりに使う人のせいで

「救急出場指令です。現場は無印地区、沢村さん宅。50代女性。『調子が悪く、病院から救急車で来るように指示があった』とのこと。かかりつけは吉田病院で、本日受診予定。」

現場に到着すると、玄関の前には 化粧をし、カバンを持った女性 が立っていた。

「傷病者の方は中ですか?」

「いえ、私です。」

そう言って、普通に歩いて救急車に乗り込む。

主訴は「調子が悪い」と言うだけ。しかし バイタル(血圧・脈拍・体温など)に異常なし

吉田病院に確認すると、

「病院に来るようには指示したが、救急車で来るようには言っていない。」

とのこと。

つまり、 交通費をケチるために、嘘をついて救急車を呼んでいた のです。

これは珍しいことではなく、たまにこういう人がいます。

そして、このとき、指令が流れた。

「救急救助指令。現場は県道難波線。軽乗用車による単独事故。傷病者は20代女性。運転席に足が挟まれ、出血あり。痛みを訴え、意識状態が悪い。」

車の交通事故のイラスト(女性) | かわいいフリー素材集 いらすとや

本来なら、3分以内に現場に到着できるはずだった。

しかし、自分は今、タクシー代わりに救急車を呼んだ女性を搬送中。

そのせいで、次に近い消防署からの出動となり、到着まで20分以上かかる ことになった。

本来なら3〜4分で救急車が到着し、痛みを和らげ、応急処置ができたはずの女性。

彼女は 不適切利用のせいで、20分もの間、痛みと恐怖に耐え続けることになった。

当然ながら、タクシー代わりに救急車を使った50代女性は、

自分が交通費をケチったことで、誰かが20分間も苦しんだことを知ることはない。


救急車は本当に必要なときに呼ぶもの

管内の救急車がすべて出動し、遠くの消防署から出動するケースは珍しくありません。

しかし、それは本来、珍しいことであるべきなのです。

「救急車はタクシーではない」

それを、もっと多くの人に理解してほしいと思います。

三重県松阪市では軽傷者であれば7700円の選定療養費を徴収する制度を始めたところ軽傷者の搬送が減ったそうです。

全国でも、同様の措置を検討すべきかもしれません。

一人ひとりの意識が変われば、救える命が増える。

今後も、救急車を適切に利用できる社会を目指していきたい。

おまけ:救急出動一件で掛かるコストは大体4万5000円、みんなの税金です。考えて使おうね。

おまけのおまけ

しあわせアフロ田中3巻の、この回が大好きです笑

ABOUT ME
あにたろ
あにたろ
30代の元消防士。歴15年。 自身の経験や感じたことを綴ります。 生きづらさを感じる人たちへ――。 私の言葉が、少しでも人生の助けになりますように。 身バレ防止の為、一部フィクションを交えて記事を書きます。
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